Wednesday, June 17, 2009

Case study : ブランディングの失敗?人材会社のサイトを考えてみる

数ヶ月前だったでしょうか。人材派遣・人材紹介会社のエイクエント(AQUENT)がサイトをリニューアルしました。エイクエントはクリエイティブとマーケティング、コミュニケーションの人材を専門に扱う派遣・紹介会社(以後、人材会社)ですが、その思い切ったWebサイトのリニューアルっぷりに感心(というか呆れた?)したので、ちょっと書いてみることにしました。


実は僕は4年ほど前にエイクエントに勤めていました。エージェントとして3年間勤めたのですが、僕が入ったときはまだ東京オフィスにはエージェントは5人くらいしかいなかったと思いますが、辞めるときには30人を超えていたと思います。そのぐらい会社規模も変わっているのですが、Webサイトについては2年ほど前に改修し、昨年あたりに更にリニューアル、で、今回の大幅リニューアルという経緯を経ているはずです。(あくまで記憶の限りですが)

では、今回のサイトリニューアルのどこが思い切っているかというと、Web手法でのアプローチよりも、広告的なアプローチを強く取りいれた印象を受けるからです。今回のリニューアルしたサイトを見る限り、グローバルでのブランディングとストラテジックのリストラクチャリングに伴うサイトリニューアルであるようです。サイトを開くと全面にエージェントの顔がアップで表示され、ナビゲーションは必要最低限に配置されています。
他の人材紹介サイトを見ていただくと分かりますが、基本的に求職系のサイトと同様に案件の検索機能がメインにあり、案件をコンテンツの中心としてコンバージョン(登録)を目指すというのが一般的な求人サイトの作りです。しかし、エイクエントのサイトでは、メインルートを辿ってみた印象では、どうやらエージェントをサービスのメインとし、求職者は仕事ではなくエージェントを検索し、そこからその担当案件を見るような作りになっています。といっても初めは案件まで辿り着けませんでしたが。

僕はかねてからマス(リクルートやテンプスタッフ、インテリジェンスなど)においては、案件ボリュームがその会社の質に繋がる側面が強いと感じていますが、ニッチである中小の人材会社はエージェント(コンサルタント)がその会社の顔であり、ブランドであると考えていますので狙い自体が外れている訳ではありません。
ただ、残念なのはこのサイトを設計したのはブランディング会社かコンサル会社、代理店が中心であり、WebマーケティングやWebサイト構築を専門とした人の意見が反映されていないのではないかと感じるところです。

このサイトの問題を以下の3つの視点で考えます。

  1. Webにおけるブランディング戦略
  2. ユーザーエクスペリエンス
  3. 検索機能設計

1,Webにおけるブランディング戦略
まず1つ目のWebにおけるブランディングと戦略について。
Webサイトにおけるブランディングでは、そのサイトの種類によって方法が大きく異なってきます。まず企業サイトとしては以下の4つのタイプが一般的です。

  • Eコマースタイプ
  • コンテンツ/広告タイプ
  • リードジェネレーションタイプ
  • カスタマーサービス

では、この中で人材会社のサイトに適したタイプはどれでしょう?
ちょっと人材会社について簡単に分析してみます。一般的に人材会社は二種類のクライアントを持つと言われています。人材を求める企業と、仕事を求める求職者です。ただ、多くの人材会社が企業からの求人案件獲得に人的リソースで営業活動を行っており、求職者獲得にWebを利用しているケースがほとんどです。Webでは求職者を獲得すること、つまり登録が最終的なコンバージョンとなります。(この場合の登録は面談のためのWeb上での登録です。実際には、ここから面談に来て実際に登録してくれたかが最終的なコンバージョンになります)

ということは、人材会社のサイトはリードジェネレーションタイプが一般的であると言えると思います。
ただ、エイクエントのサイトで行われているのはコンテンツ/広告タイプのブランディング手法のようです。ここにミスマッチが生じています。つまり、リードジェネレーションタイプのWeb上でのブランディングは、インパクトのある写真やユニークな手法を取り入れることでは無いと言うことです。

では、リードジェネレーションタイプのサイトにおけるブランディングとはどういったものでしょう?
それは何よりコンテンツの質です。この場合の質には量、新鮮さ、信頼性、頻度などが上げられます。また、人材会社であればそこに機密保持性(セキュア)を印象づけることもブランディングに繋がると思います。

例えば、同じエージェント(こっちはコンサルタントですね)にフォーカスを当てたサイトでも、クライスアンドカンパニーのサイトは作りが大きく異なります。彼らのサイトでは、まずコンサルタントの資格、姿勢、得意分野、経歴などを紹介しています。また、紹介実績として転職者の転職前の職歴と転職後の職歴を掲載していることも面白いポイントですね。また、各コンサルタントが「ヘッドハンターの目」というコラムを持っており、結構なボリュームで読み応えのある記事になっています。ちょっと残念なのはコンサルタントから案件へ辿り着けないところでしょうか。お、この人ならお任せできそうとなっても、案件検索は別のルートから移動し、案件詳細ページにはコンサルタントの名前がありませんので。




一方でエイクエントのサイトでは、エージェントの専門領域とコメント、お客様の声が掲載されています。仕事関係のネットワークとしてソーシャルネットワークへのリンクがあるのはユニークなところですが、その中での活動がコンテンツやアクションストリームなど見える形になっていないので残念ですね。


さて、両者を比較した時にどちらのエージェント、コンサルタントに相談してみようかなと感じるでしょうか?確かにエイクエントのサイトはビジュアル的にかっこいいですが、それがコンテンツの質に結びついていないと感じてしまいます。また、クライスアンドカンパニーのコンテンツはSEOとしても効果が高いでしょう。
ただ、これが広告であればどうでしょうか。エイクエントのインパクトは成功していると言えるかもしれません。人材会社でこんなクールな広告出してるところはありませんし、素敵な仕事を紹介してくれそうですから。

2,ユーザーエクスペリエンス
これは、UIにも大きく関わってくる箇所ですが、このサイトには利用者であるユーザーの視点が欠けていると感じます。言い方は悪いですが、フローやUIが会社都合の押しつけという印象を持ってしまいます。多くの人が目的を達することが出来ずに離脱しているんじゃないでしょうか?
人材会社のサイトは、仕事情報の検索というツールとしての役割・機能が重要です。ユーザーはまず仕事を検索し、興味のある仕事が掲載されていれば会社に興味を持つという行動が予想出来ます。しかし、エイクエントのサイトではあらかじめ会社側が強制しているエージェントから案件へという流れ以外でのルートがありません。(もしかしてあるのかな?あったら教えてくださいね)
エージェントを通じて案件を知るというシナリオ自体は良いと思いますが、ユーザーが求める行動に対する配慮も必要です。本のように初めから読んでくださいという一方向の流れでは無く、ユーザーの目的や、検索によってあらゆるところにランディングするケースなどを想定し、複数のシナリオからプライオリティづけをした上での設計が必要でしょう。そこで二番目以降のシナリオを削除するというのも大胆な発想としては面白いですが、選択肢が1つではビジネスチャンスをロスする確率の方が高いと思います。もし、一方的にユーザーを誘導するのであれば、HOMEページにLPO対策を施すなどすれば随分と離脱率を下げられる可能性はありますが。

ちなみに、既に登録している人、複数回サイトを訪れている人にはエージェント経由での案件への誘導は効果的な面もあります。これは僕の経験上の意見ですが、僕は人材会社を会社単位で評価しないようにしています。もちろん平均的にいい会社はありますが、概ね担当するエージェントに依存するからです。昔勤めていた人材派遣会社はそりゃーひどい評判でしたが、うちの支店の営業やコーティネーターの中にはホントに優秀でスタッフ想いの人がいて、実際にスタッフからもとても評判が良かったです。なので、そういう人の質をアピールしていくにもエージェント経由のルートを上手く活用することは有効だと思います。

ただ、皮肉なことに人材会社は人の入れ替わりが激しいので、人をアピールしていくのであれば、その人達をどう長期的に会社に勤めてもらうかというWeb戦略だけでなく、事業戦略、人事戦略に関わる問題もあったりしますけどね。

3,検索機能設計
前章でも書きましたが、ユーザーにとって人材会社のサイトの中で案件検索の機能はとっても大事です。検索機能はツールですので、ここではユーザー中心設計を踏まえたUI設計がなされていることが望ましいです。まあ、人材会社の検索機能は結構標準化されていますから、それに準拠するというのが失敗しない方法としてありますし。
残念ながら、エイクエントの検索で僕は自分の思った検索結果を一件も得ることが出来ませんでした。というか、何を入力していいか分からない状態のものが結構ありました。IA的にはちょっとオススメは出来ませんが、どんなひどいサイトでも検索機能がしっかりしていればユーザーは目的を果たせるもんです。意外と。まあそれだけ検索が一般化しているということと、求める検索結果を表示することが難しいと言うことでもありますが。


エイクエントのエージェント検索画面

リクルートエージェントの案件検索画面


さて、もともと人材会社にいたため、それをテーマに設計を考えたりしていたので随分と厳しい意見になってしまいましたが、今でもエイクエントという会社をとっても愛しているので、その愛情の裏返しと思っていただけるといいなと。。。

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